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今から年数前のこと…カラフルシティの街中に、幸せな家庭があった。
「おとーさん、見てー。綺麗なお花」
「ああ、とても綺麗だね。どこで見つけてきたんだい?」
「これ、私が育てたの。はい、あげる」
少女は嬉々として自分で育てたお花を父親にプレゼントした。
「うふふ、パパのために種から育てたのよね、翠?」
「うん!」
「そうか…今日は、僕の誕生日だったね。こんな素敵なプレゼントをもらえるだなんて…ありがとう、翠」
そして数ヶ月。
「ハッピーバースデー!翠、八歳のお誕生日おめでとう!!」
今度は、少女の生まれためでたい日。
「これはパパからのプレゼントだ。この前のお返しだよ」
そう言い、父親は一輪の花を娘に渡した。
「……これって!」
「おっ知ってたかな。これは氷結花だよ。一部の雪山にしか咲かないと言われる、とても珍しい花なんだよ」
「すごーい!初めて見た!!」
少女は嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「氷結花はね、摘むとすぐに溶けて消えてしまう儚い花なんだが…これは、パパが無理を言って形が崩れないように魔法をかけてもらったんだ。だから…ほら。こうして、髪につけても壊れないんだよ」
そう言って父親は娘に花を飾ってあげた。
「とても似合ってるわよ、翠」
「わーい!パパママありがとう!だーいすき!!」
大好きな食べ物とケーキに囲まれ、少女はとても幸せに過ごしていた。
……雨の降る日の出来事だった。
カラフルシティの中央部を走る、翠達を乗せた車。
その車に、一台のトラックが突っ込む。
鳴り響く爆音に悲鳴。翠が最後に感じたのは、自らを守る為に覆い被った母の温もり。
病院で目が覚めた翠は、全てを失っていた。
家族も、思い出の家も。帰る場所が無くなった翠は、施設に引き取られる事になった。
「…………」
幼い子供にはとても受け入れがたい現実で… 心に、ぽっかり穴が空いてしまった。
そして、明るかった彼女は今や見る影もない。
通っていた町の学校にも行かなくなり、彼女は
辛いことを忘れるために大好きだった植物を、一人で育てていた。
そんなある日、いつものように庭で水やりをしている翠に誰かが近づく。
「あーっ!ねえねえそこでお花を育ててる君!!」
振り向けば、そこには派手な格好をした見かけない少女と…たまに施設内で見かける、物静かな少女。
「ねぇ、あなた名前は?」
「あ、あぅ…」
元々、人見知りだったが事故が起こってから殆ど誰とも話さなかった翠は声が出せなかった。
「ねーったらー。歳は〜?アタシとおんなじぐらいに見えるけど」
「……アミィ。グイグイ行き過ぎ」
「う、う…ま、松村翠…は、8、歳…です」
「8歳!アタシと一緒!」
ちなみに実際には一つ年下で、彼女はまだ誕生日が来ていないだけなのである。
「アタシはね、アミィ!翠ちゃん、アタシ達と遊ばない?咲希とアタシだけだと出来る遊びがあんまなくてさ!!」
「あぅ、えっ…で、でもっ」
「ほら、一緒に行こっ!」
「えっ、ええええええ!!」
翠は半ば強引に、ハイテンションな少女に連れて行かれた。
それからはちょくちょく、アミィと翠と、もう一人の子、咲希は遊ぶことになり友達になった。
明るい二人(主にアミィだが)と一緒に遊んでいくうちに…翠の空いた心の穴も、少しずつ埋まっていった。
数年後。咲希は夢であった魔道具屋を開く事を決意したという。
施設から離れて、咲希はアミィの家の隣にあった空き家を借り、独り立ちしたのだった。
さらにアミィも家業であった仕立て屋を引き継ぎ、両親は彼女に店を任せ海外へ行ってしまったという。
二人は最初こそ、一人で店を切り盛りするのは大変そうだったが…大好きな事を仕事にできて、幸せそうだった。
そうしてアミィも咲希も自立していく中…。翠は何も変わらないままでいた。
焦燥感が、翠の心に渦巻いた。
友達がみんな、夢を叶えるために新たな一歩を踏み出す中…自分は、このままでいいのか、と。
しかし翠には…一歩を踏み出す勇気がなかった。だから、ずっと、このままが続いていくと…思っていた